書評/『謙虚なるコントラリアン投資家』ダニエル・ラスムッセン著 予測できない市場で、何に賭けるのか
書籍情報
タイトル:謙虚なるコントラリアン投資家 ― 予測不能な市場で優位性を見つける方法 ―
著者:ダニエル・ラスムッセン
監修:長岡半太郎
訳者:藤原玄
出版社:パンローリング株式会社
はじめに ― アルファを追う人たちへの敬意
本書を読んで、まず率直に抱いたのは「アルファを追求する投資家への尊敬」である。
確実に勝つ方法は理論的に存在しない。ファイナンス理論は概ね正しいが、現実離れした仮定を置いているがゆえに、実際の市場では成立しない局面も多い。その理論と現実の隙間を見つけ出し、知力と忍耐、そして実行力で収益機会に変える——それは並大抵のことではない。
だからこそ、本書の内容を一般の投資家がそのまま真似すべきではないとも感じた。探検家の伝記を読んで、自分が旅に出るわけではないが、その世界を疑似体験する。そんな距離感で読むのがちょうどよい一冊だと思う。
私自身にとっては、リスク許容度の範囲内で全世界株式インデックスファンドをバイ・アンド・ホールドする戦略で十分であることを、改めて確認する読書でもあった。
とはいえ、このジャンルの本は定期的に読んでおきたい。(自分はやらないけれど)理屈として理解し、語れるようでありたい。その目的は十分に果たしてくれた。
以下は、読書中に要点としてメモした内容の整理である。
著者の目標と投資哲学
著者の目標は明快だ。
株式ベンチマークを上回るリターンを、大幅に低いボラティリティで実現すること
市場リターンの予測は基本的に不可能であることを認めつつも、
限定的に予測可能なもの
統計的に歪みが存在する領域
にのみ賭けることで、この目標を達成しようとする。
具体的なポートフォリオは、
小型バリュー株を中核とし
BB格社債(リスクプレミアムが歪んだ局面で厚く組み入れる準リスク資産)
コモディティ(主に金と原油)
を組み合わせ、市場シグナルをモニタリングしながら機動的にアロケーションを調整するというものだ。
予測できるもの/できないものの線引き
著者は「予測は基本的に不可能」としながらも、予測には種類があるとする。
予測できないもの
企業の将来の利益成長
株式市場全体のリターン
国別・セクター別の株式リターン
金利
予測できるもの(※完全ではない)
人間の行動
ボラティリティ
相関係数
バリュエーション
特定ファクターのリターン
著者は、数式的に明確な線引きを提示しているわけではないが、
長期データで再現性があるか
経済的な直感で説明できるか
裁量を排し、ルール化できるか
といった点を、実質的な判断軸として一貫して用いているように読めた。
ファイナンス理論とバイアス
著者はファイナンス理論が現実世界でそのまま機能しない点を率直に指摘する。
ただし、理論を否定するのではない。
理論は理論として正しい
しかし限界がある
その限界を受け入れた結果として、「市場は本質的に予測不能」という結論に至る。
では、何が確かな拠り所となるのか。
それが人間の心理であり、特に投資家が繰り返し犯す典型的な過ちである。
利益成長は予測できない → バリュエーションに賭ける
利益成長が予測できない以上、現在のバリュエーションは誤っている可能性が高い。
割安株:市場が将来を悲観している
割高株:将来の高成長がすでに織り込まれている
仮に高成長が実現しても、それは株価に反映済みであり、投資家の超過リターンにはなりにくい。
一方、データは
低バリュエーションの方が報われる確率が高い
ことを示している。結果として著者は、
市場予想に反して、高バリュエーションが失敗し、低バリュエーションが成功することに賭ける
という立場を取る。
ただし、バリュエーション単独では相場に取り残される局面もあるため、収益性指標を補完的に使用する。
この考え方は地域配分にも及び、割安な地域(例:日本)を組み入れる一方、株主権の保護や会計の信頼性に制度的な懸念がある国の株式市場は避けている。
プライベートアセットへの厳しい見方
著者は、プライベートアセット投資を「投資家が犯す最大の過ちの一つ」と位置づける。
プライベートエクイティ
バリュエーションが高い
手数料が高い
真の投資機会時にディールフローが止まる
プライベートクレジット
低格付ゆえ、実際のリターンは低い
表面的には低デフォルト率とされているが、条件変更などにより実態が見えにくくなっている
相関が低く見えるのは、会計・開示の問題にすぎないという指摘は示唆的だった。
マーケットタイミングとシグナル
マーケットタイミングは、
ボラティリティ
相関係数
を軸に測定される。
特に重視されるのがハイイールドスプレッドで、
大きく拡大した局面で小型バリュー株を買う
という行動原則が示される。
50%超のドローダウンは「ネガティブバブル」であり、最大の投資機会だが、
パニック時に行動することの難しさ
も正直に認めている。そのため、事前に定めた指標と水準に従って淡々と行動する。
インフレショック時には株と債券の相関が崩れるため、
金・原油といったコモディティ
を限定的に用いる点も特徴的だ。
読後に残った疑問
特に印象に残った問いは以下である。
ボラティリティは「予測の修正」から生じるのなら、
リスクはリターンの源泉なのか?
リスクフリー資産にリターンは存在しないのか?
また、
何を予測するかだけでなく
どの期間を予測するか
によって、価値のある予測と無価値な予測が分かれるのではないか、という点も考えさせられた。
おわりに
本書は「誰にでも勧められる投資法」を示す本ではない。
しかし、
市場をどう捉えるか
何を諦め、何に集中するか
という点で、非常に誠実で示唆に富んでいる。
自分は実践しないとしても、理解しておく価値は大きい一冊だった。
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